約 3,151,921 件
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/270.html
氷とキチン プレティアス・スパテック 著 物語の舞台は第二紀855年、タロス将軍がタイバー・セプティムを名乗り、タムリエルの征服に乗り出した頃にさかのぼる。その配下の指揮官の一人であるイリオロスのビアティアは、皇帝と謁見した帰り道、待ち伏せにあって驚かされることになった。彼女とその警護に当たる5人の兵士はかろうじて難を逃れたが、本隊からはぐれてしまった。みぞれの降る荒涼とした崖の岩場を、彼女たちは徒歩で進んだ。襲撃があまりにも急であったため、鎧を着る暇も馬に乗る暇もなかったのだ。 「ゴルヴィグの尾根まで行くことができれば…」と、かすみの向こうに見える峰を指さしながらアスカタス中尉が叫んだ。その声は風にかき消されてようやく分かる程度だった。「ポルフナックに駐留させた軍隊と合流できるはずです」 ビアティアは岩だらけの地形を見渡し、風にさらされ霜に覆われた木々へと目をやり、首を振った。「こっちには行けないわ。山に着くまでの道を半分も行かないうちにやられてしまうもの。木の間から、敵の馬の白い息が見えるでしょう」 彼女はゴルヴィグの尾根とは入り江を隔てて反対側にある凍てつくネローン地峡の、天守の廃墟へと警護の者たちを導いた。突き出した岩の岬に建つそれは、スカイリム北部にある他の多くの見捨てられた城郭と同じように、アカヴィル大陸に対する防御用の盾としてレマン・シロディールが築いたものの名残だった。目的地に辿り着いて火を起こしていると、ダンストラーの酋長たちが立てる音が後方から聞こえてきた。ビアティアたちが今いる場所から南西の位置に敵がキャンプを張ったことにより、彼女たちの退路は海以外になくなった。ビアティアが廃墟の窓から霧に覆われた海を見つめている間、警護の者たちは天守の貯蔵品を調べて回った。 彼女は石を放り投げ、それが霧をわずかに引きずるようにしながら氷の上を跳ね、水しぶきを立てて裂け目に落ちるのを見ていた。 「食料も武器も見当たりません、指揮官殿」と、アスカタス中尉が報告した。「倉庫には鎧が積まれていますが、長く風雨にさらされてボロボロになっています。果たして使えるものが掘り出せるかどうか……」 「ここにいても長くは持ちこたえられない」ビアティアが答えた。「夜になれば我々が脆弱になることをノルドは知っているし、この古い天守では連中を寄せつけずにいることはできない。利用できそうなものをとにかく何でも見つけ出しなさい。氷原を渡って尾根に辿り着かなければいけないのだから」 少しの間、鎧の山を調べ、何かの断片を組み合わせたりした後、護衛の者たちはひどく汚れて擦り切れ、ひび割れた2着のキチン鎧を差し出した。長年の間にこの城に踏み入って物資を略奪したであろう冒険者や海賊の中で、最も誇りのない者でさえ、こんなキチンの皮には目もくれなかったのだろう。兵士たちはあえて鎧をきれいにしようともしなかった。こびりついたほこりが唯一の接着剤となって、鎧がバラバラになるのを食い止めているように思えたからだ。 「こんなものじゃ身を守れないだろう。むしろ足手まといになる」顔をしかめてアスカタスが言った。「暗くなってから氷の上を走ろうとしても……」 「ダンストラーの酋長たちみたいに待ち伏せを計画して実行できるぐらいの連中であれば、私たちの行動は予期しているはず。奴らが近づいてくる前に急いで行動に移さなければ」ビアティアは床に積もったほこりに入り江の地図を描き、城から海を通ってゴルヴィグの尾根へと続く半円の道を描き加えた。「あなたたちはこんな風に長い道を歩いて入り江を渡りなさい。岸から離れたところなら氷が厚くなっているし、身を隠すための岩場もある」 「指揮官どのはまさか残って城を守るつもりではありませんよね!」 「もちろん違うわ」ビアティアは首を振り、城から入り江を渡って向こう岸の一番近い場所へとまっすぐに続く線を引いた。「私はキチン鎧を身につけて、この経路で行ってみる。向こう岸に着いた時に私の声が聞こえず姿が見つからないとしても、待つ必要はない──そのままポルフナックに向かいなさい」 アスタカス中尉は指揮官を思いとどまらせようとしたが、敵の注意を逸らさなければ自分たちはゴルヴィグの尾根に辿り着く前に全滅するだろうし、ビアティアが敵の注意を引きつけるという自殺的行為を部下の誰かにさせるような人間ではないことも知っていた。指揮官を守るという任務を遂行するために彼が思いつく方法は一つしかなかった。自分も一緒に行くべきだという主張をビアティアに受け入れさせるのは容易ではなかったが、ついには彼女が折れた。 日は低くなっていたが夕焼けが大きく広がり、霊的な感じのする光で雪を照らしていた。五人の男たちと一人の女は、城の下の巨岩を滑り落ちるようにしながら岸に向かった。ビアティアとアスカタスはキチン鎧が岩に当たって立てるバリバリという鈍い音を痛いほどに意識しながら、慎重かつ正確に進んだ。指揮官の合図を受けて、鎧をまとっていない四人の男たちは、北に向かって氷の上を一目散に駆けた。 岬の天守から数ヤードのところにある、最初の隠れ場所となる尖った岩のところまで男たちが辿り着くと、ビアティアは振り返って頭上から敵軍の音がしないかどうか確かめた。何の物音もしない。まだ敵の姿はないようだ。アスカタスがうなずいた。兜の奥に見えるその瞳には恐怖の色はまったくなかった。指揮官と中尉は氷の上に足を踏み出し、走り始めた。 ビアティアが城の窓から入り江を観察した時、対岸までの最短経路は、何の特徴もない真っ白な氷が延々と続いているように見えるだけだった。実際に氷の上に立ってみると、それはさらに真っ平らで殺風景な場所に感じられた。薄く垂れ込めた霧はかかとの高さまでしかなかったが、彼らが進んでいくに従い、まるで自然の指先が彼らの存在を敵に知らせているかのように、彼らの姿は完全にさらされていた。ダンストラーの偵察者が笛を吹いて上官たちに知らせる音が聞こえてきた時、ビアティアはむしろほっとする気さえしたほどだった。 敵軍が向かってくるかどうかは振り返って確かめるまでもなかった。疾走してくるひづめの音となぎ倒される木の音が、吹きつける風に乗ってとても鮮明に聞こえていた。 部下の者たちが、視界から隠れているかどうかを確かめるために北の方角を一瞥したかったが、ビアティアはあえてそうはしなかった。自分の右側からは、遅れずについてくるアスカタスの激しい息づかいが聞こえていた。彼はもっと重い鎧を身につけることにも慣れていたが、長く使われずにいたキチン鎧の継ぎ目は脆く、しかも固く、無理に曲げようとすれば自然と息が荒くなるのだった。 尾根へと続く対岸まではまだ永遠の長さがあるように感じたその時、ビアティアは、敵が一斉に放った最初の矢が飛んでくる感触と音に気がついた。大部分は鋭い音とともに足もとの氷にぶつかったが、いくつかは彼女たちの背中に命中して跳ね返った。鎧を作ってくれたのが誰であれ、とっくの昔に亡くなったはずのその無名の職人に対して、ビアティアは静かに感謝の祈りを捧げた。最初の一斉放射に続いてすぐに第2波、第3波の矢が飛んできたが、二人は走り続けた。 「ステンダールの神様、ありがとう」と、アスカタスが息を切らしていった。「もし天守にただの皮しかなければ、今頃は串刺しになっていたはずだ。ただ望むらくは…… こんなにも固くなければ……」 ビアティアは自分の鎧の継ぎ目が固くなってきているのを感じていた。一歩進むたびに、足腰にかかる抵抗は強くなっていた。対岸に近づいていることは確かだが、走る速度がどんどん遅くなっていることもまた確かだった。氷の上を追いかけて迫ってくる敵軍の恐ろしげなひづめの音が、初めて彼女の耳に入った。滑りやすい氷の上で馬を操る者たちは慎重になっており、馬を全速力では走らせないようにしていたが、それでももうすぐ追いつかれてしまうはずだということをビアティアは知っていた。 古いキチン鎧には矢をいくつか跳ね返せるぐらいの強さはあったが、馬の上から繰り出される槍にはとうてい耐えられないはずだ。時間的にどれほどの猶予が残されているのかということだけが未知数だった。 アスカタスとビアティアが向こう岸の手前に辿り着いた時、それまで雷鳴のように響いていたひづめの音が止み始めた。岸辺には巨大な岩がのこぎりの歯のように並んでおり、それが敵の進行を妨げたのだ。二人の足もとで氷がため息をつくような音を立て、それからミシミシといいはじめた。じっと立っていることができず、かといって引き返すこともできず、二人は前に向かって走ろうとした。鎧の継ぎ目のくたびれた金属に無理に力を加えた反動で彼女たちは前方に倒れて2回跳ね、巨岩のほうへと飛んでいった。 最初に氷の上で跳ねた時、爆発のような亀裂音がした。立ち上がって最後のジャンプをしようとした時にはもう水をかぶっていて、薄い鎧の中に入ってきた水はあまりにも冷たすぎて逆に炎のように感じられた。アスカタスは、岩の深い切れ目に右手でしがみついた。ビアティアは両手でしがみつこうとしたが、彼女が選んだ岩は凍っていて滑りやすかった。顔を押しつけるようにして岩にしがみついている彼女たちは、振り返って敵軍の様子を見ることはできなかった。 それでも氷が裂けていく音は耳に届いていたし、恐怖におびえる敵兵の叫びも一瞬だけ聞こえた。だがその後は、すすり泣くような風の音と、ちゃぷちゃぷという水の音以外には何も聞こえなくなった。そして間もなく、頭上の崖から人の足音が聞こえてきた。 四人の護衛たちは入り江を渡りきっていた。そのうち二人が岩場のビアティアを引き上げようとし、別の二人がアスカタスを助けようとした。あまりの重さに音を上げそうになりながらも、どうにかして彼らは指揮官と中尉をゴルヴィグの尾根のはずれの安全な場所まで連れて行くことができた。 「いやまったく、軽装鎧にしてはずいぶん重いですね」 「そうね」疲れ切った様子のビアティアが微笑み、もう誰の姿もない割れた氷原を振り返った。彼女とアスカタスが走った2本の平行線から放射状にひび割れが広がっていた。「でもたまには、それも悪くないわ」 物語(歴史小説) 緑3
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/268.html
ケメル・ゼーの廃墟 ロナルド・ノードセン 著 帝都協会で浴びた拍手喝采がまだ耳に残っているうちから、私はもうモロウウィンドへ戻る決心をしていた。帝都での贅沢な暮らしが名残惜しくないと言ったら嘘になるが、ラレド・マカイから持ち帰った驚きなど、モロウウィンドにあるドワーフの遺跡の上っ面をなぞっただけのものでしかない。あそこにはまだ目を見張るような宝が埋もれていて、掘り起こされるのを待っているのだ。出発しないわけにはいかなかった。それに、哀れなバナーマンの示唆に富む前例もあった。二十年前、ブラック・マーシュで一度きりの発掘を行い、今になってもそのおこぼれで食いつないでいるような男になるつもりなどない。私はそう誓ったのだ。 女王の手紙を持っていたので、今回ばかりは帝都政府も全面的に協力してくれそうだった。もう、迷信深い地元民に襲われる心配もない。が、いったい次はどこを探せばいいのだろう? ケメル・ゼーの廃墟は妥当な選択だった。ラレド・マカイのように廃墟にたどりつくまでが苦しいということもない。“崖の街”としても知られるケメル・ゼーはヴァーデンフェル断層の本土側にあって、断崖絶壁の海岸線のたもとに広がっている。ヴァーデンフェルの東海岸からなら海路で訪れるのが一般的だが、近くの村から陸をとっても、余計な苦労を背負い込むことなくたどりつける。 探検チームがセイダ・ニーンに集結すると、こうした文明の遅れた土地での作業につきものの面倒をうんざりするほど抱えたまま、私たちは廃墟にほど近いマログの村へと出発した。発掘の作業員はその村で雇えばいいだろう。私の通訳を担当するツエン・パナイはダークエルフらしからぬ陽気な男で、地元の軍司令官から推薦されてセイダ・ニーンで雇ったのだった。パナイいわく、ケメル・ゼーを熟知しているマログの村人たちは、祖先の代からあの廃墟を荒らしているらしい。ついでだが、テン・ペニー(その場でつけた彼のあだ名で、本人も気に入っていた)は雇っても後悔させない男で、モロウウィンドの原野への似たような探検を考えている同僚がいたら、ためらうことなく彼を推薦しようと思う。 マログ村で最初の困難にぶつかった。控えめで気品のある村の長は快く協力してくれそうだったが、村の僧侶(この地で信仰されている、モロウウィンドの王宮に住んでいるという法廷なる存在を崇拝するくだらない宗教の代表者)が廃墟の発掘に対して激しく抗議してきたのだ。この僧侶は、この発掘が“宗教的禁忌”にあたると訴えかけることで村人を懐柔しにかかったが、私が女王の手紙を彼の鼻先で振ってみせ、セイダ・ニーンに詰めている軍司令官の友人のことを口に出すと、たちまち静かになった。この猿芝居が、村人が画策した賃上げ交渉の基本戦術であることは疑いようがない。とにもかくにも、僧侶は何やらつぶやきながら歩き去った。外国からやってきた魔性のリーダーに呪いをかけているのだろう。ほどなくして、なんとしても作業員の職につきたいという顔をした村人が列を成した。 契約条件や支給品などの委細を煮つめるのは助手に任せておいて、私とアルム師は廃墟まで馬を駆った。陸路から廃墟へ向かうには、断崖の壁面に沿って上からうねうねと伸びている小道を通らなければならず、一歩間違えば、眼下のいかつい岩場で渦巻いている海へと転がり落ちていくことになる。街への入口はもともと北東にあったに違いない。はるか昔、赤き山の噴火によってこの度肝を抜かれる火口が生まれたときに、それは海面下に沈んでしまっていたのだが。足場のぐらつく小道を首尾よく突破すると、大部屋のような場所へやってきた。片側は吹き抜けになっていて大空が広がり、もう片側は闇の中へ消えていた。歩を進めていくと、鉄くずの山をブーツで踏みつけた。古代遺跡で見かける陶片のように、ドワーフの廃墟ではお馴染みのものだ。略奪者たちはきっとこの場所で、遺跡の奥から見つけてきたドワーフ製の機械から金になる外殻だけをはぎ取り、無駄な部品を置き去りにしたのだろう。そのほうが、機械を分解しないまま崖のてっぺんまで運ぶよりはずっと楽だろう。何人もの戦士が知らず知らずのうちにドワーフ製の機械の一部を背負いながらタムリエルを歩きまわっている姿が浮かんできて、私はほくそ笑んだ。もちろん、それがたいていの“ドワーフの鎧”の正体、つまり、古代の機械人間の強化外骨格にすぎないのだ。完全な姿の機械であったら、どのくらいの値がつくのだろうと思い、ふと我に返った。大広間の床を埋めつくす鉄くずの量から判断するに、この廃墟がドワーフ製の機械装置の宝庫であることは確実だろう、いや、確実だったろう。何世紀もかけて、略奪者はここを荒らしまくってきた。外殻だけでも、鎧として売れば、まとまった金になるのだ。たいていのドワーフの鎧は雑多な部品の寄せ集めのため、かさばって扱いにくいというのが通説だ。が、完全な一体の機械から作られる鎧一式なら、金に換えられる以上の価値があるだろう。すべての部品が滑らかに重なり合い、そのいかつさがほとんど気にならなくなるのだから。もちろん、どんなに価値があろうとも、見つけた鎧を壊すつもりなど毛頭ない。科学的研究のために協会に持ち帰るつもりだった。今度の講義で鎧をお披露目したときの同僚たちの驚嘆ぶりを思い描いて、私はまた微笑んだ。 私は足元の鉄くずの山から、捨てられた歯車を拾った。まだ新品のように輝いていた。ドワーフ製の合金は時が経っても腐食しない。目の前に横たわる空洞の迷宮にはいったいどんな秘密が眠ったままになっているのだろうか。略奪者の企みを寄せつけないまま、気の遠くなるような時間を経て再び光のもとにさらされ、輝く時を待っている。私のことを待っている。私が見つけるためだけにとどまっている。急き立てるようにアルム師を手で呼んでから、私は暗がりに歩を進めた。 アルム師、テン・ペニー、そして私は数日間かけて廃墟を探検した。助手が崖のてっぺんに野営地を設営し、村から物質や装備品を運んできてくれた。私は実りの多そうな場所が見つかればいつでも発掘に取りかかるつもりでいた。廃墟内の前人未到の場所へと続く、略奪者の触れていない封鎖された通路や廊下が見つかれば。 そういった場所はすでにふたつほど見つけていたが、すぐに、何本かの曲がりくねった通路が封鎖地点を迂回して背後にある部屋へと通じていることがわかった。こうした外縁地域にも略奪者の手は伸びており、何世紀にもわたる発掘でほとんど秘宝は奪われていたものの、目に映るものすべてに考古学者の興味はそそられた。はるか昔の地殻変動で蝶番がふっ飛んでしまった巨大な青銅の扉の背後に、壮麗な彫刻が壁に施された大部屋を発見した。疲れ果てていたテン・ペニーでさえも目を見張っていた。彼はモロウウィンドのドワーフの廃墟なら完全踏破したと豪語していたのだが。壁の彫刻はなんらかの古代の儀式を描いたものらしかった。古典的なあごひげを生やしたドワーフの長老が長い列を成して横の壁を行進していた。どのドワーフも、正面の壁に彫刻された巨大な神らしきシルエットにお辞儀をしているように見えた。そのシルエットは山の火口から一歩踏み出し、煙か水蒸気の雲に飛び込もうとしていた。アルム師の話では、これまでにドワーフの宗教儀式が描かれたことはなく、とても刺激的な発見だと述べた。私は作業班に命じて、彫刻された石版を壁からはぎ取らせようとしたが、表面を傷つけることさえできなかった。詳しく調べてみると、この大部屋は手触りも見た目も石に模した金属性物質で表面加工されているため、手持ちのツールではまったく歯が立たなかったのだ。アルム師の魔法で壁を爆破してもらおうかと考えたが、彫刻そのものを破壊してしまうリスクを負うことはできず、諦めた。これらの彫刻を帝都に持ち帰りたいのはやまやまだったが、石ずりをとるだけで我慢した。協会の同僚が興味を示せば、石版を安全に取り外せるだけの知識が備わった、名人級の錬金術師のような専門家を紹介してもらえるだろう。 私は変わった部屋をもう一つ、蛇行する長い階段のてっぺんに見つけた。天井から落っこちた瓦礫をかき分けてなんとか進んだ。階段を上がりきると丸天井の部屋になっていて、大がかりな壊れた装置が中央に据えてあった。丸天井の表面のところどころに星座が描かれているのが今もまだ見てとれた。この部屋は天文台のようなもので、中央の装置はドワーフ式天体望遠鏡の残骸だろうということで、アルム師と私の意見は一致した。装置を取り外して狭い階段で運び下ろすには、完全に分解する必要があった。(だからこそこの装置は略奪者の目に留まらずに済んだのだろう)ため、ひとまずは持ち帰るのを諦めることにした。が、この天文台の存在が、この部屋がかつて地上に出ていたことを示唆していた。構造を細かく調べてみると、この部屋は堀り穿たれたわけではなく、実際の建物であることがわかった。もう一つの出口は完全に塞がれていた。崖のてっぺんから最初の部屋まで、さらにこの天文台までの深さを慎重に測定してみたところ、私たちは現在の地表から250フィート以上も地下にいることがわかった。もはや忘れられているが、赤き山の噴火はそこまで凄まじいものであったのだ。 この発見によって、私たちの意識はさらなる地下へと向けられた。古代の地表のおおよその位置がわかった今、それよりも上にあるふさがれた通路は無視してもよくなった。私の興味をとらえたのは、模様の彫られた円柱が両端に並んだ幅広の通路だった。はなはだしい落石のせいで行き止まりになっていたが、略奪者の掘ったトンネルが瓦礫の山の途中まで続いていた。発掘チームとアルム師の魔法が揃えば、先駆者が諦めた地点から作業を引き継ぐことができそうだった。ダークエルフのチームを呼んで通路を片づけさせ、ようやくケメル・ゼーの本格的な発掘にとりかかれる。私は安堵した。じきにこのブーツで、世界が始まってから一度も踏みつけられたことのない埃を巻き上げることになるのだろう。 こうした期待感に興奮しすぎたのか、私は採掘人をいささか追い立てすぎてしまったようだ。テン・ペニーの報告によると、彼らは労働時間の長さに文句をつけはじめ、こんな仕事はやってられないと口にする者までいるらしい。ダークエルフに気合を入れ直させるには鞭で脅すのが一番だというこを経験上学んでいたので、私は彼らのリーダーを鞭打って、通路が確保されるまで残りの採掘人たちを働かせた。セイダ・ニーンから数名の帝都兵を同道させたのは正解だった。採掘人たちは最初こそ渋い顔をしていたが、トンネルが貫通したさいには一日分のボーナスを与えると約束すると、意気揚々と作業に取りかかった。文明生活に慣れてしまっている読者には野蛮なやり方に聞こえるかもしれないが、こういう人種を作業に従事させるにはこうするより他はないのだ。 落石の規模は思ったよりもひどかった。結局、通路を確保するまでにほぼ二週間を要した。採掘人のつるはしが最後の穴を開けて反対側の空洞へと抜けたときには、私も彼らに混じって大喜びし、終わりよければすべてよしという意味で地元の酒をまわし飲みした(ひどい味だったが)。採掘人が向こうの部屋に進めるよう穴を広げるのを見ながら、私ははやる気持ちを抑えられなかった。この通路は古代都市の新たな階層へ続いていて、そこには消息を絶ったドワーフの残した秘法が埋まっているのだろうか。それともただの袋小路で、どこにも続いていない横道にすぎないのだろうか。私は興奮に打ち震えながら穴をくぐり抜け、その先の暗闇でしばらくしゃがんでいた、足元で砂利が擦れる音がして、あたりに鳴り響いた。大きな部屋にいるらしかった。それもかなり大きな部屋だ。私はゆっくりと立ち上がり、ランタンの覆いを取り払った。灯りが部屋を満たし、呆気に取られながら部屋を見渡した。それは想像を遥かに超える驚愕すべき光景だった。 ランタンの漏らす光が落石地点の向こうの部屋を満たしていき、私はまたもや驚きの眼差しをぐるりと投げかけた。ドワーフ製の合金の放つほのかな輝きで満ちていた。古代都市の未知の領域に足を踏み入れたのだ! 興奮のあまり心臓が早鐘を打っていた。私はあたりを見渡した。部屋はあきれるほど巨大で、天井はランタンの光が届かない闇まで突き抜けていた。部屋の奥は暗くてよく見えないが、思わせぶりな光のまたたきが、まだ見ぬ宝物の存在をほのめかしていた。両側の壁に沿って機械人間が立ち並んでいて、荒らされた様子はなかったが、奇妙な点がひとつだけあった。儀式的な意味でもあるように、その頭部が取り外されて足元に置かれていたのだ。考えられることはただひとつ。私は偉大なドワーフの貴族の墓を発見したのだ。ひょっとすると、ドワーフの王のだ! この種の墓所は何度か発見されていて、もっとも有名なのはランサム率いるハンマーフェルの発掘で出土したものだろう。が、完ぺきな状態の墓は未発見だった。そう、今までは。 が、これが本当に王族の墓所だとしたら、その主はどこにいるのだろう? 私はそろそろと前進した。時代を超えてそうしてきたように、頭のない人形の列が静かに立ちすくんでいる。取り外された頭部の瞳で見つめられているような気になった。ドワーフの呪いに関する突拍子もない話ならさんざん聞かされていたが、私はそのたびに迷信だと笑い飛ばしていた。が、今こうして、この都市を作った謎の建築家が吸ったのと同じく空気を吸っていると、そして彼らに災いをもたらした天変地異が起きてからひっそりと眠りつづけていた都市に立っていると、恐怖心がわいてきた。何らかの力が漂っている。私の存在に立腹している邪悪な力が。私はしばらく立ち止まって耳をすませた。ひっそりと静まり返っていた。 いや…… かすれるような音が聞こえてきた。呼吸するように一定の間隔で。私はパニックに襲われそうになるのを懸命にこらえた。武器もない。塞がれた通路の向こうを探検したいと気が急くあまり、危険が待っているなどはつゆほども思わなかった。脂汗をたらしながら、気配を感じようと暗がりに視線を這わせた。部屋は暖かい。ふと気づいた。これまでのどの部屋よりもかなり暖かく感じる。興奮が舞い戻ってきた。いまだに機能している蒸気パイプ網につながっている区画を見つけたのだろうか? 廃墟のいたるところで見かけた配管が壁沿いに走っていた。私は配管に近づいて触れてみた。ほとんどさわれないほど熱かった。古代の配管のあちこちが腐食して、か細い蒸気が噴き出しているのがわかった。私が聞いた音はこれだったのだ。みずからの早計さを笑った。 さて、私はさっそうと奥まで進んだ。ついさっきまでは気圧されそうな迫力があった機械戦士たちに笑顔で敬礼をしながら。光が数世紀ぶんの闇を追い払っていき、台座にそびえるドワーフ王の巨大な彫像が露わになっていくにつれて、私は勝利の笑みを浮かべた。ドワーフ王はその鉄の手に錫杖をにぎっていた。これまでの苦労が報われたぞ! 私は台座をゆっくりとひと回りし、古代ドワーフの職人芸にため息をもらした。黄金の王は高さが20フィートほどで、ドーム型のクーポラの下に立っていた。先端が反り返った長いあごひげを威厳たっぷりにたくわえていた。ぎらつく鉄の視線にずっと追われているような気がしたが、私の迷信深さはもう消えていた。私は慈しむように古代ドワーフ王を眺めた。わが王、既にそんなふうに思いはじめていた。台座に乗っかって彫刻された鎧を間近で観察しようとした。と、彫像の眼が開き、篭手をつけた拳を振りあげて殴りかかってきた! 黄金の腕が振り下ろされ、私は身を翻してかわした。直前まで立っていた場所から火花が飛び散った。蒸気を吹き、歯車をきしませながら、彫像はぎこちない動きでクーポラの天蓋から歩み出ると、ものすごい勢いで私のほうへ迫ってきた。慌てて後ずさりをする私の姿をその眼が迫っていた。またもや拳が振り下ろされると、私は円柱の陰にさっと隠れた。うろたえるあまりランタンを落としてしまい、光の池から闇の中へとすべり込んだ。あわよくば、顔のない像の間をすり抜けて安全な通路まで逃げられるようにと。怪物はどこにいったんだ? 20フィートもある黄金の彫像を見失うなんてありえないと思うだろうが、王の姿はどこにもなかった。弱々しいランタンの火がわずかに部屋を照らしていた。暗がりのどこに王がいてもおかしくなかった。私は這うように進んだ。何の前触れもなく、目の前に並んだつやのないドワーフ戦士が飛び上がるや、怪物のような守護神が目の前にそびえ立っていた。逃げ道をふさがれた! 執念深い機械が矢継ぎ早にパンチを繰り出しながら追ってきて、私は後方へかわしながら逃げた。やがて、部屋の片隅に追いつめられた。逃げ場所も絶たれてしまった。壁を背にして立っていた。私は敵をにらみつけて覚悟を決めた。巨大な腕から最後の一撃が振り下ろされた。 そのとき、広間に閃光が殺到してきた。紫のエネルギー弾がドワーフの怪物の鋼鉄の殻を引き裂いた。怪物の動きが止まった。新たな敵の姿を認めようとして半分振り向いたところだった。アルム師が駆けつけてくれた! 私が歓喜の声をあげかけた時、巨像がこちらへ振り向いた。アルム師の放った稲妻の魔法にもびくともせず、最初の侵入者を叩きつぶそうと決心していた。私は叫んだ。「蒸気だ、蒸気を使え!」巨像は拳を振り上げて私を地面にめり込ませようとした。しゅっという音とともに冷気が吹き抜け、私は顔を上げた。怪物が氷の殻に覆われていた。今まさに私に仕留めようとする姿で。アルム師はわかってくれたのだ。私はほっとして壁にもたれた。 氷がひび割れた。巨大な黄金の王が目前にそびえていた。氷の殻がはがれ落ちると、勝ち誇ったような顔で私のほうを向いた。このドワーフの怪物を止める手立てはないのだろうか? と、彫像の眼から光が消え、腕をだらりと下げた。氷の魔法が奏功し、蒸気機関が冷やされたのだ。 アルム師と採掘人がやってきて私を取り囲み、奇跡の生還を祝福した。私はぼんやりとしていた。帝都に帰還したらどうなるだろうか。きっと最大級の賛辞を浴びることだろう。越えることのできない発見をしてしまったのだ。次の道を模索する時なのかもしれない。伝説の“アルゴニアの瞳”を探し当てたら…… またもや大騒ぎになるぞ! 私はほくそ笑んだ。この瞬間の栄光を満喫しながらも、次の冒険に思いを馳せていた。 白1 随筆・ルポルタージュ
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/87.html
アルゴニアン報告 第2巻 ワーリン・ジャース 著 泥と葦原の中から現れたデクマス・スコッティは走り疲れていた。その顔と腕は赤いニクバエにびっしりと覆われていた。シロディールを振り返ると、厚くどんよりした黒い河の中へと橋が消えていくのが見えた。潮が引くまでの数日間はあそこへ戻れないことを悟った。そのネバつく河の底にはブラック・マーシュに関する報告書が沈んだままであった。こうなった今、ギデオンに連絡を取るにはもはや記憶に頼るしかなかった。 メイリックは葦原の中を強い意志をもって突き進んで行った。無駄と知りつつ、スコッティもニクバエをはたき落としながらあとを追いかけていった。 「私たちはツイてますよ、スコッティ卿」と、レッドガードが言った。スコッティはその言葉に首をかしげながら、男の指す方向へと目を向けた。「キャラバンがおります」 ガタガタの木造車輪をつけ、泥にまみれ錆びついた荷馬車が21台、ぬかるんだ地面に半分車輪を沈ませながらそこにいた。アルゴニアンの一群が他の馬車から離れたところにある1台をひいていた。彼らは灰色の鱗と灰色の目をしており、シロディールではよく見られる寡黙な肉体労働者である。スコッティとメイリックがその馬車へ近づくと、果物というより腐ったゼリーのようになってなんだか分からないほどに傷んだブラックベリーで荷台があふれかえっていた。 彼らはまさにギデオンへと向かう途中だったので、彼らの承諾を得て、スコッティはランベリーを積みおろした後に馬車に乗せてもらえることになった。 「この果物はどれくらい前に摘み取られたのですか?」とスコッティは腐りかけの荷物を見ながら尋ねた。 「収穫の月に獲れたものだよ」とこの荷馬車の長と見られるアルゴニアンが答えた。今が11月だから、畑から運ばれてかれこれ2ヶ月ちょっと経っている。 スコッティは、この輸送は明らかに問題だと思った。その問題点をなくすことこそが、ヴァネック建設会社の代理人を務める自分の仕事だと思った。 日光にあたって余計に傷みつつあるベリーを載せた馬車を脇道へ追いやるのに小一時間かかった。荷馬車同士は前後に連結されていた。キャラバンの先頭を行く荷馬車をひく8頭の馬のうちの1頭が連れてこられ、離れた荷馬車につながれた。労働者たちには覇気がなく、倦怠感が漂っていた。スコッティはこの時間にほかのキャラバンを調べたり、自分と道連れになる旅人と話したりしていた。 荷馬車の内、4台には中に備え付けのシートがあるが、乗り心地はあまりよいものではなかった。他の荷馬車には穀物や食肉、そして野菜などが積み込まれており、程度の差こそあれ、それぞれみな傷んでいた。 旅人はアルゴニアンの労働者が6人、虫にたくさん食われて皮膚がアルゴニアンの鱗のようになってしまった帝都の商人が3人、そしてマントに身をつつんだ3人。マントの3人はフードの影から覗く赤く光る目からすると、明らかにダンマーだった。皆が帝都通商街道に沿って荷を運んでいた。 顎の高さまで伸びる葦が広がる草原を見渡し「これが道なのか?」とスコッティは叫んだ。 「固い地面みたいなもんだ」とフードをかぶったダンマーの1人が答えた。「馬は葦を食べ、我々も時に葦で火をおこすが、抜いたそばからすぐに新しい葦が生えてくる」 ようやく荷馬車長がキャラバンの出発の準備が整ったことを知らせ、スコッティもほかの帝都の人間たちと3番目の荷馬車に乗り込んだ。席を見渡すとメイリックが乗っていないことに気づいた。 「私はブラック・マーシュまでの行き来しか承諾してませんよ」とレッドガードは葦原の中へ石を投げ込み、ひげだらけのニンジンにかぶりつきながら答えた。「ここであなたのお帰りをお待ちしておりますよ」 スコッティは顔をしかめた。メイリックがスコッティを呼びかける際、名前の後に「卿」を付けなかったからだけではない。いまや彼にはブラック・マーシュには誰も知り合いがないことになるのだが、荷馬車はギシギシと音をたてながらゆっくりと前へ進みだしていたので、もはや議論する時間はなかった。 毒をはらんだような風が通商街道を吹き抜け、葦原に奇妙な模様を描いていった。遠くには山のようなものが見えるが、わずかながらに動いているため、それは濃い霧の壁であることがわかった。たくさんの影が風景を横切っていき、スコッティが空を見上げると巨大な鳥が数羽飛んでいた。その剣のようなくちばしは、身体と同じくらいの長さだった。 「ハックウィングだよ」スコッティの左側に座る帝都のケアロ・ジェムラスがぶつぶつ言った。彼はまだ若いようだったが、疲れきって老人のように見えた。「ここはまったくあきれた場所だよ。ぐずぐずしてたらパクッとひと飲みされちまうよ。あの物乞いたちは急降下してきて、あんたに一撃を食らわし、飛び立った頃にはあんたは失血死でおだぶつさ」 スコッティは震え上がった。夜が更けるまでになんとかギデオンに到着できることを祈った。その時彼は、太陽の向きがおかしいことに気づいた。 「失礼だが……」と、スコッティは荷馬車長に聞いた。「ギデオンに向かっているのですよね?」 荷馬車長はうなずいた。 「それならばなぜ北へ向かっているのですか? 我々が向かう方角は南なのでは?」 返事の代わりにため息が返ってきた。 スコッティはほかの旅人もギデオンに向かっていることを確認したが、誰一人としてこのおかしなルートを取ることに疑問を抱いてなかった。荷馬車の固い椅子は、中年の背中や腰には正直こたえたが、キャラバンの動くリズムや葦の揺れに誘われ、スコッティはいつのまにか眠ってしまった。 数時間後、スコッティは暗闇の中目を覚ました。今、自分がどこにいるのかがわからなかった。キャラバンは停車しており、気づけばシートの下の床に横たわっていた。横には小箱がいくつかあった。シーシーカツカツという声が聞こえてきた。彼には何語なのかまったくわからなかったが、誰かの脚の間から何が起こっているのか見えた。 双月の光はキャラバンを囲むこの厚い霧の中ではわずかに差し込む程度であり、声の主が一体誰なのか、今いる位置からはっきりとはわからなかった。どうも荷馬車長がぶつぶつと独り言をいってるかのように見えたが、暗闇の中で動くものはしっとりとした、光り輝く皮膚をしているようだった。一体その生物がどれだけいるのかは検討がつかないが、とにかく大きくて、黒くて、目を凝らすとより細かな部分が見えてきた。 ぬらぬらと光る針のように尖った牙でいっぱいの巨大な口が見え、スコッティは急いでシートの下へとまた滑り込んだ。彼らの黒い眼はスコッティをまだとらえてはいなかった。 スコッティの目の前にあった脚はパタパタと動き出し、そのまま何者かに荷馬車の外へと引きずりだされた。スコッティはさらに奥へと縮こまり、小箱の間で体を小さくした。スコッティはきちんとした身の隠し方というものを心得てはいなかったが、盾を使った経験はあった。なんでもいいから相手との間に障害物があることは感謝すべきことであった。 瞬く間に、目の前にあった脚はすべて消え去り、絶叫が1つ、2つと聞こえてきた。その叫び声は声質も、アクセントも違っていたがその叫びが伝えてくるものは…… 恐怖、苦痛、それも恐ろしい苦痛であった。スコッティは長い間ステンダール神へ祈祷していなかったのを思い出し、この場で祈りをささげた。 静寂が訪れた…… それは不気味なほどの静けさで、数分が数時間、数年にさえも感じられた。 そして荷馬車は再び動き出した。 スコッティは周りに注意を払いながらシートから這い出した。ケアロ・ジェムラスが困惑した表情を向けた。 「やあ、お前さん…… てっきりナガスに食べられちまったかと」 「ナガス?」 「たちの悪いやつらさ」とジェムラスは顔をしかめて言った。「腕と脚のついた大毒蛇さ。怒り狂って立ち上がったときは78フィートほどの高さになる。内陸の沼地から出てくるんだが、ここいらの物はさして好みじゃなさそうだ。だからお前さんのようなお上品な人間は奴らの大好物なんだよ」 スコッティは今のいままで自分が上品だと思ったことは一度もない。泥にまみれ、ニクバエに喰われた彼の服はせいぜい中流階級あたりの格好だ。「なぜ私を狙うのだ?」 「そりゃもちろん奪うためさ」と帝都の男は笑顔で答えた。「あと殺すためだな。お前さん、ほかの者たちがどんな目に遭ったか分からないのか?」男は先ほどの光景を思い出したように、顔をしかめた。「シートの下にある小箱の中身を試してないのか? 砂糖みたいなもんさ。どうだい?」 「いいや」とスコッティは顔をしかめた。 男は安心してうなずいた。「お前さんはちょいとのんびり屋みたいだな。ブラック・マーシュは初めてか? ああ、クソッ! ヒストの小便だ」 スコッティがジェムラスが発したその下品な言葉の意味を聞こうとすると雨が降ってきた。地獄の果てのような悪臭を放つ褐色の雨がキャラバンに降り注いだ。遠くで雷がゴロゴロと鳴っていた。ジェムラスは馬車に屋根をかぶせようとし、スコッティの方へじっと視線を送るので、しかたなくスコッティも手伝いをするはめになった。 この冷たい湿気のせいだけではなく、屋根で覆われていない荷台の作物にさきほどの雨が降りこんでいる光景を見て、スコッティはぞっとした。 「すぐに乾くさ」とジェムラスは笑顔で言い、霧の中を指した。 スコッティはギデオンを訪れたのはこれが初めてだが、どんなところかの大体の予想はしていた。帝都と似たり寄ったりの大きな建物、建築様式、過ごしやすさ、伝統を持っている土地であると。 しかし泥の中に居並ぶあばら家の寄せ集めはまったく違っていた。 「ここは一体どこだ?」とスコッティは当惑して聞いた。 「ヒクシノーグだ」ジェムラスは奇妙なその名前を力強く発音した。「お前さんが正しかったよ。南へ行くべきところを北へ向かっていた」 物語(歴史小説) 茶4
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/159.html
これから「純潔泥棒」の話をしよう。ハンマーフェルのサッチという街にたいそう裕福な男爵が暮らしていた。男爵は珍しいコインの収集家として有名だった。男爵夫人のベロニクは夫の趣味などまったくもってくだらないと断じていたが、男爵の富がもたらす生活は気に入っていた。 ラビウス・テリヌスは名うての泥棒だった。伝説の盗賊ギルドの大盗賊であると豪語していたものの、それは大見得を切っていたにすぎなかった。世に知られる唯一の盗賊ギルドは450年前に滅びていたのだから。 ラビウスは思い立った。男爵は富を分け与えるべきなんだ、とりわけこの俺と。ある晩、この狡猾な盗っ人は男爵の居城に忍び込み、「ひと仕事」を働くことにした。 その城の外壁はあまりに高く、とうていよじ登れないことで知られていた。ラビウスは機転をきかして「貫通の弓矢」を使い、銃眼のついた胸壁のてっぺんにロープを張った。まんまと胸壁をよじ登ったあとは、男爵の衛兵をやり過ごさなくてはならなかった。銃眼の陰に入って身を隠しながら、誰にも気づかれずにずんずん進んでいった。 ラビウスほど腕のいい泥棒にとっては、城門を破ることなど朝飯前だった。が、男爵の私室の扉は13本ものピンのついた意地の悪い鍵で守られていた。ラビウスはたった9本の開錠用ツールでこの扉を破ってみせ、フォークとわずかな糸と革製の酒袋だけでもって、男爵のコインコレクションを防護する7つの罠を外してみせた。彼はまさしく一流の泥棒であったのだ。 首尾よくコインをせしめると、ラビウスはその場をずらかろうとした。が、退路はふさがれていた。扉が開いていることに男爵が気づき、衛兵をたたき起こして城内をしらみつぶしに探させていたのだ。ラビウスは、追っ手の衛兵の一歩先を行きながら、城の奥へ奥へと逃げていった。 ラビウスが脱出するには、ベロニク男爵夫人の寝室を通り抜ける以外に道はなかった。寝室に入ると、男爵夫人がベッドを作っていた。ここでひとつ言っておきたいのだが、ラビウスは男ぶりの良さで、男爵夫人は器量の悪さで知られていた。両者のどちらも、たちまちこの事実に気づかされた。 「私の純潔を奪いにきたのですか?」と、男爵夫人は震えながら訊いた。 「いいえ、マダム」と、ラビウスは頭をフル回転させて言った。「あなたの純潔のような繊細な花を「奪おう」だなんて、あまりにがさつというもの」 「主人の大切なコインを盗み出してきたのね」 ラビウスは穴が開くほど男爵夫人の瞳を見つめ、この夜を生きて脱するための唯一の道を見てとった。ふたつの犠牲が求められそうだった。 「このコインもことのほか高価なのでしょうが、お金に換えがたい秘宝を見つけてしまったようです」と、ラビウスはすらすらと言った。「教えてください、美しき人よ。どうしてご主人は、かように安っぽいコインのために容赦ないワナをいくつも備えておきながら、美しい妻の部屋の扉には簡単な鍵をひとつしかつけないのでしょうか?」 「主人は大切なものしか守らないから」と、ベロニクは怒りもあらわに答えた。 「私なら全財産をはたいてでも、あなたの輝きに浴せる一瞬を求めるでしょう」 そう言って、ラビウスは苦労して盗んだコインを床に置いた。男爵夫人が彼の腕にしなだれかかってきた。彼女の私室を調べさせてほしいと衛兵隊長が告げると、彼女はラビウスを巧みにかくまった。床のコインをひっくり返し、泥棒が窓から逃げるときに落としたんだわ、と訴えた。 こうして最初の犠牲がなされ、ラビウスはふたつめの犠牲を果たすべく勇を鼓した。その晩、彼は男爵夫人の純潔を盗んだのだ。何度も何度もそれを盗み、夜が明けそうになるまで勢いは衰えなかった。心地よい疲労感を感じながら、ラビウスは朝ぼらけの中へと逃げ出したのである。 小説・物語 紫1
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/199.html
狼の女王 第3巻 ウォーヒン・ジャース 著 筆:第三紀1世紀の賢者モントカイ 第三紀98年 今年も残りあと2週間というとき、皇帝ペラギウス・セプティム二世が逝去した。「北風の祈祷祭」のさなかの星霜の月15日のことで、帝都にとっては悪い兆しだと考えられた。皇帝が統治した17年間は苦難の連続だった。枯渇した財源をうるおそうと、ペラギウスは元老院を解散させ、その地位を買い戻させたのだ。有能だが貧しい評議員を何人か失った。皇帝は復讐に燃える元老院のメンバーによって毒殺されたのだ、多くのものがそう口にした。 亡き父の葬儀と新皇帝の戴冠式に出席するため、皇帝の子供たちが帝都にやってきた。末っ子のマグナス王子は19歳で、アルマレクシアから帰郷した。彼はそこで最高裁判所の審議官を務めていた。21歳になるセフォラス王子はギレインからレッドガードの花嫁、ビアンキ王女を連れて帰ってきた。長男のアンティス王子は43歳になる推定皇位継承者で、父とともに帝都で暮らしていた。最後に現れたのは、「ソリチュードの狼の女王」と呼ばれる一人娘のポテマだった。30歳になるまばゆいばかりの美女で、壮観な従者の一団を連れて、初老のマンティアルコ王と1歳になる息子のユリエルとともにやってきた。 当然のことながら、アンティオカスが皇位を継ぐものと思われていた。狼の女王に何かを期待するものはいなかった。 第三紀99年 「今週になって、毎日夜中近くに、ヴォッケン卿が数人の男をポテマ様の私室に連れ込んでおりました」と、諜報参謀は言った。「ご主人にそれとなく気づかせればおそらく──」 「ポテマは征服の神、レマンとタロスの信奉者だ。愛の女神、ディベラではない。その男たちと乱交に及んでいるのではなく、何かを企んでいるのだろう。誓ってもいいが、妹よりも私のほうが男とベッドをともにした経験が豊富だろう」アンティオカスはげらげらと笑ってから、真剣な顔つきになった。「元老院が戴冠を先延ばしにしている裏では妹が絡んでいるのだろう。まちがいない。もう6週間になる。書類の更新と戴冠式の準備に時間がかかるということらしいが。皇帝はこの私だ! 堅苦しいことは抜きにして、冠をかぶせてくれ!」 「たしかにポテマ様はあなたの友人ではございませんが、要因は他にも考えられますぞ。お父上がいかに元老院を冷遇されたか、お忘れではあるまい。警戒すべきは彼らのほうでしょう。必要とあらば、手荒い説得もやむをえませんな」諜報参謀はそう言うと、意味ありげにダガーを突いてみせた。 「かまわん。が、めざわりな狼の女王にも見張りをつけておけ。私がどこにいるかはわかってるな」 「どちらの遊郭でしょうか?」と、諜報参謀は訊いた。 「今日は金曜ゆえ、『猫とゴブリン』であろう」 ポテマ女王のもとに訪問者はなかったと、諜報参謀はこの夜の報告書に書きこんだ。というのも、ポテマは御苑の向かいにある蒼の宮殿で、実母であるクインティラ女帝と夕食をとっていたからだった。冬にしては暖かい夜で、昼間の嵐が嘘のように空には雲ひとつなかった。地面はたっぷり水を吸い込んでいたため、格式ばった庭園は水を撒いたあとのような光沢を放っていた。二人はワインを片手に広いバルコニーに向かい、地上を見下ろした。 「腹違いの兄さんの戴冠を妨害しようとしてるわね」と、クインティラは視線を合わさずに言った。時の流れは母親にしわを刻んだというよりも、しおれさせてしまっていた。そう、石に描かれた太陽のように。 「そのつもりはないわ」と、ポテマは言った。「でも、そうだと言ったら心が痛む?」 「アンティオカスは私の息子じゃないわ。私があの人と結婚したとき、アンティオカスは11歳だった。それからずっと疎遠なまま。あの子は推定皇位継承者になったせいで成長が止まったのよ。家庭を築いて立派な子供たちがいてもおかしくない年齢なのに、あいかわらず道楽と女遊びにふけってる。立派な皇帝にはなれないわ」クインティラはため息をついて、ポテマのほうを向いた。「けど、不満の種を撒いても家族のためにはならない。派閥に分かれるのは簡単だけど、絆を結びなおすのはとても難しい。帝都の未来が心配だわ」 「そんなことを言うなんて── お母さん、ひょっとしてもう長くないの?」 「凶兆が見えたわ」クインティラははかない、皮肉めいた笑みを浮かべた。「忘れないで、私はカムローンでは高名な妖術師なのよ。私の命はあと数ヶ月。それから一年もしないうちに、あなたの夫も亡くなるわ。心残りがあるとしたら、成長したユリエルがソリチュードの王になるところを見届けられないことね」 「お母さんには見えたのかな──」ポテマは言いよどんだ。自分の計画をぺらぺらと話すべきではなかった。その相手が、死にかけている母親であっても。 「ユリエルが皇帝になれるかどうかって? その答えもわかってるわ。心配しないで。あなたはその答えを見届けられるわ、いずれにしても。ユリエルに贈り物があるわ、大人になったときのために」女帝は大きな黄色の宝石がひとつ埋め込まれたネックレスを首から外した。「魂の宝石よ。雄々しい人狼の霊魂が吹き込まれているの。私とあの人が36年前に戦って倒したのよ。幻惑系の魔法をかけてあるから、着用者は望んだ相手を魅了できるわ。王様にはもってこいのスキルでしょう」 「皇帝にもね」ポテマはネックレスを受け取った。「ありがとう、お母さん」 一時間後、手入れされた一対の植え込みから伸びる黒い枝の脇を通りすぎたとき、ポテマは不穏な影に気づいた。その影は私室へと続く小道に立っていたが、ひさしの落とす闇の中へ消えた。あとをつけられていることには気づいていた。宮中の生活にはこうした危険がつきまとう。が、この影は彼女の私室に近づきすぎていた。ポテマは首のネックレスにそっと指をすべらせた。 「姿を見せなさい」ポテマは命じた。 男が暗がりからすっと出てきた。浅黒い小柄な中年の男で、黒く染めたヤギ皮をまとっていた。視線は凍りついたようにじっと動かない。魔法がきいているのだろう。 「誰に命じられたの?」 「わが主人、アンティオカス王子」と、男は死人のような声で言った。「私は王子のスパイ」 ある計画を思いついた。「王子は書斎にいるの?」 「いいえ」 「鍵は持ってるの?」 「はい、女王様」 ポテマは満面の笑みを浮かべた。この男はもう私のものだわ。「案内してちょうだい」 翌朝、またもや嵐が吹き荒れた。たたきつけるような風雨が壁や天井を打ち鳴らし、アンティオカスを苦しめた。昨晩遅くまで痛飲したのだが、若かりしときのように二日酔い知らずというわけにはいかないらしい。彼はベッドをともにしているアルゴニアの娼婦を激しく揺さぶった。 「たのむから窓を閉めてくれ」と、アンティオカスはうめいた。 窓が閉められるやいなや、扉にノックの音がした。諜報参謀だった。王子に微笑みかけると、一枚の紙を手渡した。 「こいつはなんだ?」と、アンティオカスは横目で見ながら言った。「まだ酔いがまわってるらしい。オークの字みたいに見えるよ」 「きっとお役に立ちましょう。ポテマ嬢がお見えになられていますぞ」 アンティオカスは服を着ようか娼婦を追い出そうか迷ったが、思いなおした。「部屋に通せ。あいつをカチンとこさせてやろう」 ポテマがカチンときたにせよ、表情には出さなかった。オレンジとシルバーのシルクにくるまって、勝ち誇った笑みを浮かべながら部屋に入ってきた。人間山脈ヴォッケン卿がすぐあとをついてきた。 「こんばんは、兄さん。昨晩、お母さんと話してね、とっても知的なアドバイスをいただいたの。公の場では兄さんと戦うなと言われたのよ。家族と帝都のためを思って。そういうわけで──」そこまで言うと、法衣のふところから一枚の紙を差し出した。「兄さんに選ばせてあげるわ」 「選ぶ?」アンティオカスは笑みを投げ返した。「それはどうもご親切に」 「皇位をみずから放棄してちょうだい。そうすれば元老院にこれを見せる手間がはぶけるわ」ポテマは義兄に手紙を手渡した。「兄さんの印章つきの手紙よ。自分の父親がペラギウス・セプティム二世じゃなくて、宮廷執事のフォンドウクスだってことを兄さんは知っていましたって告白してあるの。さあこれで、この手紙を書いたかどうかを否定するまでもなく、兄さんは噂を否定できなくなるわ。それに、元老院はきっと、あの元皇帝なら奥方を寝取られてもさもありなんと信じるでしょうね。にっくき相手だもの。真実がどうあれ、手紙がいんちきであろうとなかろうと、このスキャンダルで兄さんが皇帝になれるチャンスは吹っ飛ぶわ」 アンティオカスは青ざめた顔で憤っていた。 「心配ないわ、兄さん」ポテマは兄の震える手から手紙をひったくった。「快適な隠遁生活を送れるようにしてあげるから。心が望むだけ、その下半身が望むだけ、娼婦をあてがってあげる」 と、アンティオカスはいきなり笑い出すと、諜報参謀に目配せした。「そういえば、私がこっそり隠していたカジートの春画を見つけ出して、脅迫してきたことがあったな。かれこれ20年も前になるか。おまえも気づいたはずだが、最近は鍵もかなり進歩しててね。自分の力では望んだものが手に入らないとわかって地団駄を踏んだことだろうな」 ポテマはただ笑ってみせた。だからなんだっていうの。もうこっちのものだもの。 「ここにいる私の従者を魅了してまんまと書斎に入り込み、印章を使ったんだな」アンティオカスはにやにや笑った。「呪文を使ったか。魔女の母親に教わって?」 ポテマはひたすら笑みを浮かべていた。義兄は思ったよりも頭が切れるわ。 「魅了の呪文は、どんなに強力なものでも、後に効力が消えることを知っているか? もちろん、知らなかったろう。魔法はおまえの得意とするところじゃなかったからな。ひとつ教えてやろう。長い目で見れば、呪文をかけるより、俸給をふんぱつしたほうが奉公人はより長い間仕えてくれるものさ」今度はアンティオカスが一枚の紙を取り出した。「それでは、おまえに選択肢を与えよう」 「どういうこと?」と、ポテマは言った。笑顔はしおれかけていた。 「意味不明なものにしか見えないが、心当たりがあるならはっきりとわかるだろう。練習用紙だよ。私の筆跡に似せようとしているおまえの筆跡でいっぱいの。いい贈り物をもらったよ。以前にもやったことがあるんじゃないのか、他人の筆跡をまねたことが。そういえば、おまえの旦那の亡くなった奥方が書いたとされる、夫婦の第一子は婚外子と告白した手紙が見つかったそうだな。その手紙もおまえが書いたんじゃないのか。おまえがくれたこの証拠を旦那に見せたら、あの手紙もおまえが書いたものだと信じるかもしれないな。いいかね、狼の女王。今後いっさい、同じような罠をしかけようなんて思いなさんな」 ポテマはかぶりを振った。はらわたが煮えくり返ってしゃべることもできなかった。 「そのいんちきの手紙をよこすんだ。で、ちょっと雨にでも打たれてくるといい。そして、のちほど、私を皇位につかせないためにおまえがどんな陰謀をたくらんでいたのか白状してもらうとしよう」アンティオカュスはポテマをまっすぐに見すえた。「私は皇帝になるつもりだよ、狼の女王。さあ、行くがいい」 ポテマは義兄に手紙を手渡すと、部屋を出ていった。廊下に出てからしばらく、言葉が出てこなかった。大理石の壁についた目に見えないほど細かい裂け目からしたたり落ちる銀色の雨水をじっとにらんでいた。 「ええ、皇帝になるがいいわ」と、ポテマは言った。「けど、いつまでもというわけにはいかない」 物語(歴史小説) 茶2
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/129.html
異端の発想 狂信はシヴァリング・アイルズから一掃されるべき忌まわしきもである。たとえもう1つの魂にであろうと奴らの教義が広まるのに耐えられなぬ。奴らは信念に欠けているという理由で我々を異端者と呼ぶのだ。だが我々はその名を快く受け入れよう、そして名誉に値するものを作り上げるのだ。 真実を述べるのは異端にあらず。不当な支配者を非難することは異端にあらず。真の信条を守るため武力を持ち行動することは異端にあらず。我々はシヴァリング・アイルズではいわゆる異端者だが、異説など述べてはおらぬ。真実を述べているのである。 我らが君主、シェオゴラスは、単なる人間にすぎぬ。奴は唯一、肉と血を持っているが、神などではなく、もちろんデイドラの王子たちでもない。デイドラの王国には王子などおらず、唯一我々の命令で召喚するハンガーのような卑しき従者がいるだけだ。 あの偽のシェオゴラスは狂った暴君なのである。何年にもわたって卑劣な魔法に手を染め、デイドラと同調することで狂っていった。奴はもちろん聖職者でもなく、支配者にもふさわしくなし。アーデン=スルの教えを歪め、アーデン=スルの心臓の血を与えられた者なのだ。 我々の主張である真実が人々の間で周知の事実となれば、ニュー・シェオスから奴を追いやり、剣で汚水溜めへと放り込んでくれる。奴の四肢を四方八方へと散乱させるのだ。頭部は自殺の丘へ捨て置き、心臓は自由の炎で焼きつくす。内臓は犬のエサとして与えくれてやる。 我々はシヴァリング・アイルズの全ての人々に異端者のローブを着せるつもりだ。これらのローブにより、我々はお互いが真の無信奉者であると通じ合えるのだ。人々は我々のように未開の荒野へと戻り、自然のままに生きるがよい。奴らは我々の導く人生における清らかさと知恵がいまにわかるだろうそして救世主として歓迎するのだ。 SI デイドラの神像関連 神話・宗教 茶2
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/28.html
正当なるリスラヴ シンジン 著 真の英雄がすべからくそうであるように、リスラヴ・ラリッチの生誕は不吉なものだった。年代記に記されているところによれば、彼が生まれた第一紀448年の春の夜は季節外れの寒さで、我が子の姿を目にして間もなく、母親のリネイダ女王は亡くなったことになっている。すでにたくさんの後継ぎに恵まれ、3人の息子と4人の娘の父親であったスキングラードのモーラス王が果たしてリスラヴを大いに可愛がったかどうか、年代記編者たちは特に触れていない。 彼の存在はあまりにも目立たないものであったため、その人生の最初の20年間については実質的に何も記録が残されていない。教育に関して言えば、コロヴィア西部の「予備の王子」がみんなそうであったように、アイレイドの家庭教師たちが狩りと戦闘の仕方を教えていたのだろうということぐらいは想像できる。礼儀作法、宗教的な教え、そして政治の基本でさえ、より文明が開けていたニベネイ渓谷とは異なり、コロヴィア台地における王子教育にはほとんど含まれていなかった。 第一紀461年、薄明の付きの23日に行われたゴリエウス皇帝の戴冠式の参列者名簿の一部として、彼および彼の家族に関するごく簡単な記述が見られる。式典が行われたのはもちろんアレッシアのマルク教養の時代であり、それゆえに娯楽性は一切なかったが、それでもとにかく13歳のリスラヴは最も偉大な伝説的人物たちを何人か目撃することができたのである。アネクイナの野獣ことダルロック・ブレイが王国を代表し、皇帝に敬意を表した。スカイリムの長であった白王クジョリックとその息子ホーグも出席していた。さらに、エルフ全般に対して帝都は不寛容であったにもかかわらず、チャイマーのインドリル・ネレヴァルとドゥーマーのドワーフの王デュマクも、特に波風を立てることもなく、レスデインの外交代表として確かに参列していた。 また、ハイ・ロックの帝都法廷に雇われていた若いメルで、後にリスラヴとともに大いなる歴史を築くことになる者の名も名簿の中にはあった。ライエイン・ディレニである。 ほぼ同年齢であった二人の若者がその場で会って話をしたかどうかに関しては、完全に歴史家の想像に委ねるしかない。最終的にイリアック湾のパルフィエラ島を買い取り、ハイ・ロック全域とハンマーフェル、およびスカイリムの大半も徐々に手中に収めていった、大地主としてのライエインについては賞賛の言葉で語られているが、リスラヴの名はさらに17年間、歴史書に一切登場していない。以下に述べる事実に基づいて推測することしか我々にはできないのである。 王の子どもたちというものは、言うまでもないことだが、同盟を結ぶことを目的として他の王の子どもたちと結婚するものである。五世紀にはいるとスキングラードとクヴァッチの王国は共通の領土を巡って小競り合いを繰り返し、ようやく和平合意に達したのは472年のことだった。この協定に関する詳細は記録されていないが、6年後、ジャスティニアス王の娘ベレンの夫としてリスラヴ王子がクヴァッチの法廷に立っていたことは分かっているから、和平を目的として二人が結婚していたと考えるのは根拠ある推測だと言えるだろう。 これをきっかけとして我々は、シロディール全域、特に独立国のコロヴィア西部において疫病が猛威を振るっていた478年に目を向けることになる。犠牲者の中にはモーラス王およびスキングラードの王族全員も含まれていた。リスラヴの兄として唯一生き残ったドラルドは、マルクの僧侶として帝都にいたおかげで助かったのである。ドラルドは王位を継ぐために故国に戻ることになる。 ドラルドに関してはいくらか歴史に記録がある。王の次男であった彼は、ややお人好しであると同時に、非常に信心深い男でもあったようだ。年代記編者はこぞってその人の良さと、幼い頃にお告げを見たことをきっかけとして──父親の賛意を得た上で──やがてスキングラードから帝都へと移り、聖職に就いた経緯について記している。マルクの聖職者にとっては、宗教的なことと政治的なことの間にもちろん何の区別もなかった。それがアレッシア帝都の宗教であり、皇帝に刃向かうことは神に刃向かうことと同じだと説いていたのである。それを知っていれば、ドラルドがスキングラードの独立王国の王となったとしても特に驚くには当たらないだろう。 王位に就いて彼が最初に発した布告は、王国を帝都に譲渡するというものだった。 それに対する反応として、コロヴィアの私有地全域に衝撃と憤激が満ちた。他のどこよりもそうだったのがクヴァッチの法廷だった。リスラヴ・ラリッチはその妻および義父配下の24人の騎兵隊を引き連れて、兄の王国に向かったとされている。年代記編者がどれほど尾ひれをつけようとしてみても軍隊としては見栄えのしないものであったことは明らかだが、それを阻止しようとドラルドが派遣した衛兵たちを突破するのにさほど苦労は要らなかった。実際のところ、戦闘は行われなかったのである。スキングラードの兵士たちも、自治権を放棄するという新しい王の決定に憤慨していたからだ。 兄弟は自分たちが育った城の中庭で向かい合った。 典型的なコロヴィアのやり方に従い、裁判もなければ反逆罪の告発もなく、陪審員も裁判官もそこにはいなかった。死刑執行人がいただけである。「汝、我が同胞にあらず」と、リスラヴ・ラリッチはそう言い、一撃でドラルドの首をはねた。血まみれの斧を両手に握ったまま、彼はスキングラードの王の冠を戴いた。 リスラヴ王にはそれまで戦闘の経験がなかったのだろうが、すぐにそんなことは言っていられない状況になった。一度は領地を差し出したはずのスキングラードが申し出を撤回したという話があっという間に帝都に広まった。ゴリエウスは帝位に就く以前から熟練した戦士であり、皇帝になってからの17年間の平穏な状態はかろうじて保たれたものだった。ドラルドが暗殺されてリスラヴが支配の座に就くわずか8ヶ月前、ゴリエウスと配下のアレッシア軍は、やはり戴冠式の参列者の一人であった白王クジョリックと凍てつく北の平原で相対していた。スカイリムの族長たちの長はサンガードの戦いで命を落とした。残された族長たち新たな指導者を選んでいる間、シロディールはスカイリム南部での失った領土を取り戻すことに余念がなかった。 要するに、ゴリエウス皇帝は反抗的な臣下に対処するやり方を知っていたのだ。 年代記編者の言葉を借りるなら「死の洪水のように」、スキングラード征服に必要な数を大幅に上回るアレッシア軍が西に向かって突進していった。実際の戦闘がどのようなものになるかは、ゴリエウスも知り得なかった。前述したようにリスラヴの戦争経験は皆無かそれに近いもので、家庭教師の下で訓練を数日したに過ぎない。彼の王国とコロヴィア西部全域は疫病で甚大な被害を被ったばかりである。武器をちらつかせるだけで降参するに違いないとアレッシア軍は[踏んでいた。 ところが、リスラヴは戦闘の準備を行っていたのだ。自軍の状態を手早く視察して彼は計画を立てた。 それまでリスラヴの人生には目もくれなかった年代記編者たちはここに至って、崇拝にも似た喜びを持ち、この王のあれやこれやについて書き連ね始めるのである。それは文学的価値や趣に欠けた文章だったかもしれないが、少なくともそのおかげでようやく我々は何らかの詳細を知ることができるようになる。驚くにはあたらないが、王は当時としては最高の鎧を身につけていた。タムリエル全体の中でも最高の皮鎧──当時は皮鎧しかなかった──を作る職人たちがコロヴィア私有地に住んでいたからだ。王のクリバニオン鎧は、丈夫にするために茹でてからロウを塗り、1インチの鋲を打ち込んだもので、深みのある赤茶色をしており、彼は黒いチュニックの上にそれを着て、さらにその上に黒い外套を身につけていた。スキングラードに現在建っている正当なるリスラヴの像は美化された姿であるとはいえ、鎧以外はほぼ正確に作られている。コロヴィア西部に住む吟遊詩人が市場に向かうときでも、あそこまで簡単な防備で出かけるようなことはなかっただろう。しかし銅像には、後に詳しく述べるように、リスラヴにとって最も重要な装備もちゃんと含まれている。訓練された鷹と、足の速い馬だ。 冬の雨は南へと続く道を洗い流し、大量の水がウェストウィルドからヴァレンウッドへと流れ込んでいた。皇帝は北のルートを選択していて、少数の偵察隊を引き連れたリスラヴ王は、現在は黄金の道という名で知られている低い道で彼に出くわした。皇帝軍は、その行軍の音が数百マイルも離れたアネクイナの野獣の耳にも届いたと言われるぐらいの巨大なものだったが、不本意にも皇帝は恐怖に震えていたと年代記編者たちは記している。 一方のリスラヴは震えていなかったと書かれている。完ぺきな礼儀正しさを保ちながら、彼はスキングラードの小さな王国でもてなすにはあまりにも軍隊が大きすぎることを皇帝に伝えた。 「次にいらっしゃる時は……」と、リスラヴが言った。「前もってご一報ください」 アレッシアの皇帝の多くがそうであるように、ゴリエウスはあまりユーモアを解する男ではなく、リスラヴの頭にシェオゴラスでも取りついたのだろうと考えた。そして、この哀れな頭のおかしい男を捕まえるように警護の者たちに命じたのだが、その瞬間、スキングラードの王は片腕を上げて鷹を空にはなったのである。それは彼の軍隊が待ち受けていた合図だった。アレッシアの兵士たちはすべて、リスラヴ軍が放つ矢が届く範囲内の道の上にいた。 リスラヴ王と警護の者たちは、年代記編者いわく「興奮したキナレスに口づけされたかのように」、西に向かって一目散に馬を走らせた。あえて振り返って確かめようとはしなかったが、計画は完ぺきに進んでいた。その道の東の突き当たりは転げ落とされたいくつもの大きな岩でふさがれていたため、アレッシア軍は西に向かう以外になかった。スキングラードの射手たちは報復攻撃を受ける心配のない高台にいて、帝都軍に向けて矢の雨を降らせた。怒り狂ったゴリエウス皇帝はリスラヴを追いかけてスキングラードを遥かに越え、ウィルドからコロヴィア台地にまで進軍したが、その間に配下の軍隊は見る見る小さくなっていった。 コロヴィア台地の古い森の中で、帝都軍はリスラヴの義父であるクヴァッチ王の軍隊に出くわすことになった。アレッシア軍はおそらくまだ数の上で敵より優勢ではあったが、疲労困ぱいしており、矢のあられを浴びせられたことで士気は失われていた。1時間の戦闘の後、彼らは現在では帝都保護区として知られている北の地域に向かって撤退し、そこからさらに北、そして東へと向かい、ニベネイまで退却して傷と誇りの回復に努めた。 それがアレッシアの覇権にとっての終えんの始まりだった。コロヴィア西部の諸王もクヴァッチおよびスキングラードに加勢し、帝都の侵略に抵抗した。ライエイン率いるディレニの一族もそれに刺激され、ハイ・ロックの全所有地からアレッシア改革派の宗教を追放し、帝都の領土へと攻め込み始めた。新たにスカイリムの族長たちの長となったホーグはホーグ・メルキラーという名で呼ばれるようになり、公然と異国人を嫌っているという点では皇帝と同じだったが、やはり抵抗運動に加わった。ホーグが戦死した後にはその後継者となったアトモラのイスミール・ウルフハース王が闘争を続け、やはり歴史にその名を残すことになった。 実質的に一人で皇帝軍に立ち向かい、その終えんの端緒を開いた英雄的なスキングラードの王は、まさに、正当なるリスラヴという愛称で呼ばれるのにふさわしい人物だったのである。 歴史・伝記 茶2
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/184.html
火中に舞う 第3章 ウォーヒン・ジャース 著 マザー・パスコストは彼女の酒場である薄暗い穴へと消え、すぐに見覚えのある、リオデス・ジュラスの走り書きがなされている紙くずを持って現れた。デクマス・スコッティはそれを、木の街を覆う大きな枝の数々の間から差し込んでいる、木漏れ日にかざして読んだ。 ── スクッティへ ボリンウッドのファリネンスティに付いたか! おめでたう! ここに来るまでにいろいろ大変だったろー。残念だけど、思ってるとおり、もー俺はここに以内。川をくだるとアシエって町があって、おれ居る。舟みっけて、こい!さいこーだぜ!けいあく書、一杯もってきたろうな、こいつらたちたくさんタテモノひつよだぜ。こいつらたち、戦闘にちかかったんだけどよ、ちかすぎてカネがねーわけじゃねぜ、ハハッ。出切るだけはやく恋。 ジュラスより ── なるほど、スコッティは考えた。ジュラスはファリネスティを離れ、アシエと言う場所へ移動していた。彼の下手な筆跡と言葉を失うような文法を考慮すると、その場所はアシー、アフィー、オスリー、イムスリー、ウルサ、クラカマカ、このどれにでも同等になり得るのである。常識的に考えたら、この冒険をやめて帝都へ戻る手段を探したほうが良いのはスコッティにも分かっていた。彼は興奮する人生にその身を捧げる傭兵ではなく、成功を収めた民間建設会社の先任書記なのである、または、先任書記で「あった」のである。この数週間、彼はキャセイ・ラットに身ぐるみをはがされ、へらへら笑うボズマーの一味にジャングルで死の行進をさせられ、餓死寸前になり、発酵したブタの乳でこう惚状態にされ、巨大なダニに食い殺される寸前になり、射手に襲われた。彼は不潔で、疲れ果て、手持ちはたったの10ゴールド。更に、彼をその提案によってこの苦難の連続へと導いた張本人はここに居もしない。完全にこの計画を放棄するのは、賢明で礼儀にかなったことである。 しかし、小さいが、はっきりとした声が頭の中でささやく。 「あなたは選ばれたのだ。最後を見届ける以外に選択肢はない」 スコッティは丈夫そうな老婆のほうを向いた。マザー・パスコストは彼のことを、もの珍しそうに見ていた。「最近、エルスウェーアと衝突寸前になった村をご存じないかを考えていたのですが。アシ…エ、そのような名前なのですが?」 「アセイのことじゃな」にやけながら彼女は言った。「次男坊、ヴィグリルがそこで牧場を経営していてな。川沿いできれいなところじゃ。そこにあんたの友達は行ったのかね?」 「はい」と、スコッティは言った。「最短でそこへ行く方法を知っていますか?」 短い会話の後、さらに素早くファリネスティの根の部分まで行き、そして川岸まで走った。スコッティは巨大で、髪の色が薄く、ふやけたような顔を持ったボズマーと移送の交渉をしていた。彼は自分をバリフィックス船長と呼んでいたが、あまり世間を知らないスコッティでさえ、彼が何であるかは分かった。金さえ渡せば雇えるであろう、引退した海賊で、疑う余地のない密輸者、あるいはもっと酷いこともするのであろう。彼の船は明らかに昔盗まれたもので、壊れかかった帝都式1本マストの帆船である。 「50ゴールドで、2日でアセイに連れて行ってやるぜ」のびのびと、轟くような声でバリフィックス船長は言った。 「10、いや、ごめんなさい、9枚ならあります」と、スコッティは答えてから説明の必要性を感じ、「10枚あったのですが、ここまで連れてきてもらうのに、広場のフェリーマンに1枚あげてしまいました」と、付け足した。 「じゃあ9枚でもいいぞ」と、船長は合意した。「本当のところ、あんたが金を払おうが払うまいが、俺はアセイへ行くつもりだったんだ。まあ、船に乗ってくつろいでくれ、あと数分したら出発だ」 デクマス・スコッティは木箱が高く積み上げられ、船倉から溢れ出た袋が甲板へとせり出すほど貨物を積まれたせいで深く水に沈みこんでいる船に乗り込んだ。それらの袋は、それぞれまったく害のなさそうな品物の名前が刻印されていた。くず銅、豚脂、インク、ハイ・ロックの食事(「牛用」と書かれていた)、タール、魚のゼリー…… スコッティはどのような非道徳的な交易品が船中にあるかを想像し、それが絵となって頭の中を巡りめぐった。 残りの荷物を船中に積み終えるまでにバリフィックス船長が言った数分以上かかったが、1時間後には錨は上がり、アセイに向かう流れに乗っていた。草色をした水面はわずかに波立ち、そよ風に頬を撫でられていた。岸には草木が生い茂り、様々な動物が互いに歌いうなり合うさまを隠していた。周りの穏やかな環境によって心を静められたスコッティは、眠りへと落ちていった。 夜起きた彼は、清潔な着替えと食べ物をバリフィックス船長から受け取った。 「聞いてもいいかね? なぜアセイへ行くのだ?」と、ボズマーは言った。 「あそこで、昔の同僚と合流するのです。帝都でアトリウス建設会社の職員だった私に、契約の交渉をするためにここへ来るよう彼が私に依頼したのです」スコッティは、2人で夕飯として分け合っていた干しソーセージを口にした。「最近のカジートとの戦争で破損した橋や道路や建物などの修理と改装をするつもりです」 「この2年間は辛かった」船長はうなずいた。「でも、俺やあんたやあんたの友達にはいいのかも知れんが。交易路は遮断されているぜ。聞いたか? 今度はサマーセット島と戦争になるかも知れないらしいぜ」 スコッティは首を横に振った。 「俺は、沿岸でスクゥーマの密輸をたくさんやってきた、革命家の部類のヤツらでさえ助けてやってきたぜ。でもな、戦争が俺を堅気の貿易商、商売人にしちまった。戦争で出る最初の犠牲者はいつも堕落した人間だ」 スコッティはお気の毒にと言い、2人は沈黙し、穏やかな水面に映る天空の星や月を見ていた。次の日、スコッティが起きてみると、泥酔して動けず、帆に絡まりながら、ろれつが回っていない舌で歌っている船長を目にした。スコッティが起きたのを見ると彼は、ジャッガの大瓶を差し出した。 「ウエスタンクロスのお祭り騒ぎで懲りてるぜ」 船長は笑い、そして突然泣き出し、「堅気になんかなりたくねえ。昔知ってた他の海賊たちは、今でも犯し、盗み、密輸して、あんたみたいな善良なヤツらを奴隷として売りさばいてるんだ。本当に、初めて合法の荷物を運んだとき、俺の人生がこうなるなんて思ってもいなかったぜ。戻れるのは分かってるさ、でもな、いろいろと見てきた後の俺じゃあ無理だ。俺は破滅だ」 励ましの言葉をささやきながら、スコッティは涙を流す海の男が帆から出るのを手伝った。そして、こう付け足した、「話題を変えてごめんなさい、でも、今どこですか?」 「ああ」バリフィックス船長は惨めにうめいた。「予定より早く到着できた。アセイはそこを曲がったらすぐだ」 「では、アセイは火事のようです」と、スコッティは指を差しながら言った。 タールのように黒い、巨大な煙の柱が木の上へと昇っていた。川が曲がっているところを抜けると、炎が見え、そして黒く焼かれ骨組みだけになった村が見えた。火に包まれ、死にゆく村人たちは岩から川へと飛び込んだ。嘆きの不協和音が耳に届き、私の周囲にはたいまつを持ち、歩き回るカジート兵の姿が見えた。 「ああ、神よ!」ろれつの回らない船長が言った。「また戦争だ!」 「何てことだ」と、スコッティは泣きそうになった。 帆船は炎に包まれた街とは反対側の岸へと流された。スコッティは岸と、その安全性に注目した。恐怖から離れた穏やかな木陰。そのとき、2本の木の葉が揺れ、弓で武装した柔軟なカジートが十数名、地上へと降りてきた。 「見られています」と、スコッティはささやいた。「弓を持っています!」 「弓を持っているって? あたりまえだろう」バリフィックス船長はうなった。「あれは俺たちボズマーが発明したかも知れんが、秘密にしておこうとは考えなかった。政治家め」 「今度は矢に火をつけています!」 「そうだな、たまにあることだ」 「船長、撃っています! 火のついた矢で撃ってきています!」 「ああ、そうだな」船長はうなずいた。「ここで肝心なのは、矢が当たらないことだ」 だが、すぐに命中し始めた。そして最悪にも、2度目の一斉射撃で矢が積み荷のピッチに命中し、とてつもなく大きな青い炎が上がった。船と積荷が粉々になる直前に、スコッティはバリフィックス船長をつかんで船から飛び降りていた。冷たい水の衝撃がボズマーを一時的なしらふにした。彼は既に川の曲がりへと全速力で泳いでいたスコッティを呼んだ。 「デクマス先生よ、どこへ向かって泳ぐつもりだい?」 「ファリネスティへ戻ります!」と、スコッティは叫んだ。 「何日もかかっちまう、それに着く頃には皆アセイへの攻撃のことを知ってるぜ! 見慣れないヤツなんか入れてくれないぞ! ここから一番近い下流の村はグレノスだ、そこなら俺たちを保護してくれるかもしれん!」 スコッティは船長のところまで戻り、燃え盛る村の形跡を後に、並んで川の中央を泳ぎ始めた。泳ぎを覚えたことを、彼はマーラに感謝した。帝都地方はそのほとんどが陸地に囲まれていたため、シロディールの多くの子供たちは泳ぎを覚えなかった。もしミル・コラップやアルテモンで育てられていたなら絶望的であったかもしれないが、帝都自体は水に囲まれていたため、男の子も女の子も皆、船がなくても川を渡れた。冒険者ではなく、書記へと育った人たちでもそうである。 バリフィックス船長のしらふの状態は、水の温度に慣れるにつれて薄れていった。冬であっても、ザイロー川は比較的暖かく、それなりに快適である。ボズマーの泳ぎは変則的で、スコッティに寄ってきたり、離れたり、前に出たり、遅れたりしていた。 スコッティが右を見ると、炎は木々が薪であるかのように燃え移っていた。なんとか追いつかれないようにはしているが、後ろからは猛火が流れてきている。左の岸は、アシの葉が揺れ、何が揺らしているのかを見るまでは、問題がないように見えた。今までに見たことがないほど巨大なネコが群れをなしているのである。彼の最悪の悪夢にも匹敵するようなアゴと歯、赤褐色の毛と緑の目を持つ猛獣であった。その獣たちは泳いでいる2人を見つめながら、速度を合わせて歩いている。 「バリフィックス船長、あの岸へもこっちの岸へも行けません、半熟に煮えるか食べられてしまいます」スコッティがささやいた。「腕の動きとバタ足を安定させてください。普段と同じように息を。疲れてきたら言ってください、しばらく背で浮きましょう」 酔っ払いに理性的な助言をしたことがある人ならば、この絶望感を理解できるであろう。ボズマーが海賊時代の小唄をうめいている最中、スコッティは遅くなったり、早くなったり、左右に流される船長の速度にあわせた。同行者を見張っていないときは、岸のネコに注意した。しばらく続いた直線を抜けた後、右方向へと曲がった。違う村が火に焼かれていた。それは、疑いようもなくグレノスであった。スコッティはその赤々と燃え上がる業火を見つめ、その破壊のさまに恐怖した。そして、船長が小唄をやめたのを聞き逃していた。 彼が振り向いたとき、バリフィックス船長はいなかった。 スコッティは濁った川の深みへと何度も潜ってみた。何もできることはなかった。最後の捜索から浮上したとき、巨大なネコは去っていた、おそらく彼もまた溺れたと思ったのであろう。彼は1人で下流へと泳ぎ続けた。川の支流が最後の防壁の役目を果たしたと見え、延焼はそこで止まっていた。しかし、もはや街はない。数時間後、彼は岸に上がることの賢明さを考え始めた。どちらの岸へ、それが難問であった。 決断する必要はなかった。彼の少し先に、大きな焚き火をたいた岩だらけの島が見えた。ボズマーの一行の邪魔をすることになるのか、はたまた、カジートの一行か、彼には分からなかったが、彼はもう泳げなかった。張りつめて痛む筋肉で、彼は自分を岩の上に引き上げた。 教えられる前に、彼らがボズマーの難民であることが分かった。逆側の岸で、彼をつけ狙っていた巨大ネコと同じ種類の生物の死骸が火にかかっていた。 「センチー・タイガー」と、若い戦士の1人が言った。「ただの動物ではないです―― キャセイ・ラットやオームスや他のカジートと同等の賢さがあります。こいつは溺れてしまっていたので残念です。生きていれば、喜んで殺してやったのに。肉は気に入ると思います。こいつらは砂糖をたくさん食べるせいで、肉は甘いんですよ」 人間ほど知的な生物を食べることができるかどうかスコッティには分からなかったが、ここ数日間やってきたように彼はその行動に自分自身が驚いた。肉は味わい深く、みずみずしく、豚の砂糖漬けのように甘かったが、味付けは何もされていなかった。食べながら彼は、集まった人々を見渡した。悲しげな集団、中には失った家族を想い、いまだに泣いているものもいる。彼らはグレノスとアセイの両方の生き残りであり、全員が戦争のことを話していた。どうして―― はっきりとシロディール出身のスコッティに向けられた言葉である ――どうして皇帝は彼の領土の安全を守らないの? 「シロディール人と合流するはずだったのですが……」彼は、アセイ出身であると踏んでいたボズマーの娘に言った。「彼の名前はリオデス・ジュラス。彼に何が起きたか知りませんか?」 「あなたの友達は知りませんが、街に火がついたときにもアセイにはシロディールがたくさんいました」と、娘は言った。「そのうちの何名かは急いで逃げたと思います。彼らは内陸のジャングルの中にあるヴィンディジへ向かっていました。私や他の大勢も明日そこへ行きます。もし望むのであれば、一緒にどうぞ」 デクマス・スコッティは厳かにうなずいた。岩でゴツゴツしている川の島、彼はできるだけ自分の気持ちを落ち着けようとした。そして努力の末、どうにか彼は眠りに落ちた。しかし、その眠りはあまり深くなかった。 物語(歴史小説) 赤1
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/235.html
「物乞い」 レヴェン 著 エスラフ・エロルは豊かなノルドの王国、エロルガードの女王ラフィルコパと王者イッルアフのあいだに生まれた5人の子供たちの最後の子であった。妊娠中、女王は身長の2倍もの幅があり、分娩には開始から3ヶ月と6日間かかった。エスラフを押し出した後、彼女は顔をしかめ、「ああ、清々した」と言って亡くなったのは、なんとなく理解できる。 多くのノルド同様、イッルアフは妻のことはあまり気にかけてはいなかったし、子供たちはそれ以下であった。よって、彼がアトモラの古の伝統に従い、愛する配偶者の後を追うと宣言した時、家臣たちは戸惑った。彼らはこの2人がとりわけ愛し合っていたとも思っていなかったし、まずそのような伝統が存在していたことを知らなかった。それでも、北スカイリムの辺境、特に冬期は、退屈が一般的な問題であり、庶民たちはこの退屈を和らげてくれた、王家のちょっとした、それでいて劇的な出来事に感謝した。 彼は王室に仕えるもの全員と、太り、うるさい彼の5人の小さな相続人たちを前に集め、財産を分け与えた。息子イノップには彼の称号を、息子ラエルヌには彼の土地を、息子スオイバッドには彼の富を、娘ライスィフィトラには彼の軍隊をそれぞれ与えた。イッルアフの相談役たちは、王国のためにも遺産をすべてまとめておくことを提案したが、イッルアフは相談役の人々のことを、ついでに言えば王国のことさえもそれほど大切には思ってはいなかった。公表を終え、彼はダガーで喉を引き裂いた。 かなり内気な看護人の1人は、王の生命が徐々に消え行く中、ようやく話しかける決心がついた。「殿下、5人子、エスラフ様のことをお忘れですが」 イッルアフはうめき声をあげた。血が喉から吹き上げる最中、集中するのはいささか難しい。王者はむなしく何か遺贈できるものはないか考えたが、何も残っていなかった。 彼は口から血を飛ばし、いらつきながら言った。「では、エスラフも何か選べばよかったではないか」そして、亡くなった。 生まれて数日の赤ん坊が、彼の正当な遺産を要求することを期待されているのは、間違いなく不公平である。 誰も彼を引き取らないので、内気な看護人、デゥルスバが赤ん坊を家へと連れて行った。それは老朽化した小さな小屋で、その後の数年間で、さらに老朽化していった。仕事が見つからず、デゥルスバは家財道具をすべて売り払い、エスラフのための食べ物を買った。彼が歩き、喋れる歳になったころには、彼女は壁や天井も売ってしまっていたので、家と呼べるものは床しかなかった。もし、あなたがスカイリムへ行ったことがあるのであれば、その状況がどれだけ不十分かを理解してもらえるであろう。 デゥルスバはエスラフに、彼が生まれたときの話も、彼の兄弟が遺産でかなり良い生活をしている話もしていない。前にも述べたように、彼女は内気であり、その話題を切り出すことを難しく感じていた。彼女がどれほど内気なのかの証拠に、彼がどこから来たのかに関して少しでも質問すると、デゥルスバは走って逃げてしまうのである。実際それが、逃げることが彼女のすべてに対する答えなのである。 とにかく、彼女と話をするために、エスラフは歩くことを覚えるとほぼ同時に走ることを覚えた。最初は義理の母についていけなかったが、時と共に、早く短い短距離走を予測した場合は、つま先を主に使って走り、デゥルスバが長距離走に旅立ちそうなときは、競歩のようにかかとを主に使って走ることを学んだ。彼女からは必要な答えのすべてを得られなかったが、走ることだけはしっかりと覚えた。 エスラフが成長していた数年間で、エロルガード王国は残酷な場所になっていた。王者イノップには公庫がなかった。富はすべてスオイバッドが引き継いだのである、王者には土地からの収入がなかった。土地はラエルヌが引き継いだのである、王者には民を保護する軍がなかった。ライスィフィトラが軍を引き継いだのである。さらに、彼は子供であったため、王国のすべての決定は、予想以上に腐敗した評議会を通っていた。王国は、搾取的に税が高い国となり、犯罪は頻発し、近隣国から定期的に侵略を受けていた。タムリエルの王国として特に異例の状況とは言えないが、とはいえ嫌な状況ではあった。 ついに収税官がデゥルスバのあばら家にきて、この家の状況から徴収できる唯一のもの、床を持っていってしまった。抗議するよりも、この可哀想で内気な女性は走り去ってしまい、エスラフは2度と彼女の姿を見ることはなかった。 家もなく、母もおらず、エスラフはどうしたらよいのか分からなかった。寒さにはデゥルスバの家で慣れていたが、彼は空腹であった。 「肉を一切れくれませんか?」彼は街路を少し下ったところにいるブッチャーに聞いてみた。「すごくお腹が空いてます」 この男は少年のことを何年も前から知っていて、しばしば妻に、この子が天井も壁もない家で暮らしていることをどれだけ気の毒に思っているかを話していた。男はエスラフに微笑みかけ、「どこか他へ行け、さもなくば叩くぞ」と言った。 エスラフは急いでブッチャーの下を去り、近くの酒場へ向かった。酒場の主人はかつて王者の宮廷で従者をしており、この少年が本来ならば王子であることを知っていた。この可哀想な少年が街路を歩く姿を何度も見ており、その都度、運命の残酷さにため息をついた。 「何か食べるものをくれませんか?」と、エスラフは酒場の主人に聞いた。「すごくお腹が空いてます」 「俺がおまえを料理して食っちまわないで、良かったな」と、酒場の主人は答えた。 エスラフは急いで酒場を後にした。その後、一日中、少年はエロルガードの善良な民に食べ物を乞うた。一人だけ、彼に何かを投げてくれたが、それは食べられない石であった。 夜が迫ったとき、ぼろぼろの服を着た男がエスラフに近づき、何も言わずに果物と干し肉を手渡した。少年は受け取り、目を見開き、むさぼり食いながら男に愛想よく感謝した。 「もし明日、おまえが街路で物乞いをしている姿を見かけたら……」男はうなった。「おまえを殺してやる。ギルドが1つの街に許可する物乞いの数は決まっている。おまえは、丁度その枠から溢れる。商売あがったりだ」 エスラフ・エロルは走り方を学んでおいて幸運であった。彼は一晩中走った。 エスラフ・エロルの物語は「盗賊」という本に続く。 物語(歴史小説) 茶2
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/150.html
帝都の略歴 第3巻 帝都歴史家 ストロナッハ・コージュ三世 著 本著の第1巻では、セプティム王朝初代皇帝タイバーから第8代皇帝キンタイラまでの歴史の概略を述べた。第2巻では、レッド・ダイヤモンド戦争とその後に続くユリエル三世からキャシンダール一世までの治世について述べた。また、その巻の最後に、いかにして皇帝キャシンダールの異父弟ユリエル四世が帝位を継承したかを論じた。 ご存知のように、ユリエル四世はセプティムの血を引いていなかった。彼の母カタリア一世はダークエルフだが、セプティムの血統である皇帝ペラギウス三世に嫁ぎ、夫の死後長い間女皇として君臨した。しかしユリエルの父親は、カタリアがペラギウスの死後に再婚したブレトンの貴族、ガリヴェール・ラリアートであった。キャシンダールは帝位を継ぐ以前、ウェイレストの王であったが病弱だったため、また子供がいなかったためにその地位を異父弟のユリエルに譲って退位した。その際、キャシンダールは法的にユリエルを養子として皇籍に迎えたのである。その7年後、母カタリアの死によってキャシンダールは皇帝として即位し、さらに3年後にユリエルは再びキャシンダールの位を継ぐことになるのである。 ユリエル四世の治世は長く、問題の多い時代であった。彼は正当に皇籍に入っていたし、また彼の父親の家系であるラリアート家もセプティムの傍系で高い地位にあったにも関わらず、元老院の大多数は彼を正当なセプティムの血統と認めなかった。元老院はカタリアの長い治世中、加えてキャシンダールの短い治世中も、帝政にかかわる権限の大部分を任されていたので、意思の強いユリエル四世のような皇帝は彼らにとって「異物」であり、彼らの忠誠を勝ち得るのは不可能であった。皇帝と元老院は一度ならず意見を違え、多くの場合元老院の意見が通された。ペラギウス二世の時代から、元老院は帝都の中で最も裕福な男女で占められ、絶大な権力を持っていたのである。 そして元老院の反抗はユリエル四世の死後も続いた。ユリエル四世の息子アンドラックは元老院の決定により帝位を継げず、代わりに、セプティムの家系により近い彼のいとこセフォラス二世が第三紀247年に即位した。セフォラス二世の即位から9年間、アンドラックを擁護する勢力は帝都と帝位をめぐって争った。賢者エラインタインによる「タイバー・セプティムの沈黙の心臓」条例によって、アンドラックはショーンヘルムのハイ・ロック王国の王となり、争いに終止符が打たれた。その地は今にいたるまでアンドラックの子孫が治めている。 しかし、セフォラス二世はアンドラックに関することよりも大きな問題を抱えていた。強奪者キャモランと名乗る男、エランタインが「暗黒の悪夢」と呼んだデイドラとアンデッドの軍隊を率いてヴァレンウッドに侵攻し、その地の王国を次々に征服したのである。彼の猛攻に抗えるものは少なく、血塗られた年となった第三紀249年になると、抗おうと試みるものすらいなくなった。セフォラス二世はハンマーフェルに次々と傭兵を送り込み征服者の北進を止めようとしたが、彼らはみな買収されるか、そうでなければ殺されてアンデッドとして征服者に加わった。 強奪者キャモランについては、それだけで1冊の本が書けるほどである(詳細についてはバロウズ・イルトーレによる「征服者の滅亡」を参照されたい)。ここでは、征服者の討伐に皇帝はほとんど貢献していないことを記すにとどめる。皇帝に残されたものは局地的な勝利、それに無力な皇帝に対する王たちの反感と反乱の増加であった。 しかし、セフォラス二世の息子である次代皇帝のユリエル五世は、帝都の潜在能力を示し反感を鎮めた。タムリエルの民衆の注目を国内の争いから逸らすため、彼は第三紀268年の即位直後から帝都外への遠征を始めたのである。ユリエル五世は271年にロスクリーを、276年にキャスノキーを、279年にイェスリーを、そして284年にエスロニーを、次々と征服した。 第三紀288年、彼はついに最も大きな野望であったアカヴィル王国の侵略に乗り出した。この試みはしかし、ユリエル五世がアカヴィルでのイオニスの戦いにおいて命を落としたことで最終的に失敗に終わった。それでもなお、ユリエル五世は歴代皇帝の中でもタイバーに次ぐ武人として評価されている。 ユリエル五世の幼い息子を始めとする、最近の4代の皇帝については次の最終巻で述べる。 歴史・伝記 緑3